製作もの
「スチール」
今回は家のとある部分に注目して紹介したいと思います。日常生活で「こんなものが欲しいな」という時どうしますか?お店で探す?インターネットで探す?カタログをパラパラとめくって?家づくりでも同様ですが、思い描いたものが見つからない時はつくればいいのです。既成品を組み立てるだけでは、自分にピッタリとくる家をつくることはできません。きっと特注で製作すると高いのでは…と思われると思います。でも材料と作り方によってはそれほどでもないことも。家づくり、1品1品つくるものの中で意外と色々できるのは、鉄の製作ものかも知れません。勿論既成品もあるのですが、結局は1つ1つつくっている物ですし、機能的・デザイン的にも…こうしたい、ああしたいと思うところが多いのです。
階段
鉄で製作するもの、まずは階段です。木造住宅では木でつくるのが一般的と思われるかも知れませんが、鉄骨のササラに木の段板をのせてつくることも多いです。鉄を使うことによって段板の下を囲わずにオープンにつくり易くなるため、階段下を部屋に取り込んだ使い方をすることができますし、段板が浮いて見えるような階段にすることもできます。右写真の家は、平面的には「くの字」に曲がった階段になっています。ささらの折り曲がり箇所に鉄骨の丸柱を立ててササラを繋ぎ、木の段板をのせて段板の反対側は壁にのみ込ませて支えています。ササラの上部に段板を乗せるためにギザギザと階段状にし、下部を直線でスッキリしたデザインにしたところがポイントです。また、螺旋階段も鉄製ならではです。左写真の家は建物中央に土間があり、土間から2階、そしてロフトへと螺旋階段が繋がっています。階段奥の木製サッシから入る朝日を取り込むためにも、段板の下に力板をつけずにスッキリと軽快なデザインを目指しました。こういった階段には鉄板や丸鋼(鉄の棒)、フラットバー、楕円パイプなど色々な素材を使っていますが、その素材は一般に流通している規格品から選び、それを成形し、溶接してつくってもらっています。このように、デザイン的にも機能的にもその家にほんとうに合ったものを、必要な場所に使うことができるということが「製作もの」のいいところです。
手摺
つくるには鉄がいいけれど、触ると冷たいという一面も。特に手摺などをつくったときには感じることがあります。そこでこんなことをしたり。右の写真はスチールの手摺に麻縄を巻いたものです。ここでは奥様に金属アレルギーがあり、塗装してあれば大丈夫とのことでした。とはいえ…なにか巻きましょうか?という会話から始まりました。
太さや形状の様々な革紐や色々な素材の紐サンプルを取り、みんなで確認をして、床材やそのほかのイメージと合わせて決めたのがこの時使った麻縄でした。階段手摺だけではなく他に、吹抜に面した手摺や一階の二本組の丸柱にも麻縄巻をしました。
結局、見積で出てきた金額が高かったこともあり、設計者自ら巻くことになるのですが…。 (どの職方さんがやれるのか建設会社も経験がなく、悩んだ結果、単価が高く出たようです。) また、他にも手摺に木をかぶせたりと色々なパターンが考えられます。スチールだけでは「ちょっと固いイメージだな…」と思われる方は、他の素材と合わせることでまた違った雰囲気にすることもできるのでおすすめです。
外部
階段、手摺ときたのでお次は内から外に目を向けてみましょう。サッシの外側に防犯目的でつける面格子です。アルミサッシと一緒に注文する既成品だと同じパターンのものがほとんどなので、思うようにいかないことが多いです。それに引違い窓や上げ下げ窓、内倒し窓は既製の面格子がありますが、写真のように外側に突き出す窓だと難しくなってきます。
さらに…製作することで色も形もデザインも自由につくることができます。取付部は壁が仕上がる前に埋め込む手法もありますが、写真の住宅は外壁が仕上がった後に取り付けています。もちろん簡単にははずせないようになっています。
また、地味なところでこんなものも。物干しです。多くの方が軒先に物干し竿を吊り下げたり、壁に取り付けていると思います。しかし、物干し竿は仕舞ったりすることなく、常に”そこにある”ものとなります。スッキリシンプルなものをつけたいですね。また、各家庭の洗濯物を干す上で必要な長さを考えてつくることができます。
このように、自由に製作することによって機能とデザイン双方を満足させることができます。
スチールドア
木造ではなくRCやS造の大きな公共施設の建具としてはポピュラーなものです。木造の住宅では防火の件もありアルミサッシが主流になっていますが、条件によっては十分使えます。私達はいい玄関扉がないなぁという時に選択肢の一つにしています。木製の扉もいいですが、防火戸にしなければならないときには使えません。シンプルで全体の雰囲気を壊さない扉という意味では、非常にシンプルにつくることが出来ます。
この写真の家では、玄関扉の左側のFIX部分・扉の上側もスチールドアとしてつくっています。一面大きな扉のような状態です。扉左側のFIX部分には、上から「表札」「インターホン」「ポスト口」を組み込みました。表札はステンレスの切文字に足をたて、浮かして取付けています。ポーチ灯の光で上から光を当てており、少し影が落ちるので立体感がでます。
スチールではないですが表札も製作ものです。見積に枠予算でいれておいて、引渡しに間に合うようにサイン屋さんに発注・製作・取付しています。外壁に取り付けることも出来ます。
インターホンは既成品のインターホン子機の必要部分に穴を開けて壁の厚みを使って内部に取付けています。もちろん玄関内からメンテナンスできるようになっています。ポスト口も家の中から郵便物が取れるようになっています。少しおおきな回覧板や封筒なども受けられるようにポストの開口の大きさも自由につくることが出来ます。
この住宅で、この扉の一面の使い勝手やデザインを展開図で確認しながら建主さんといろいろと話をした記憶が蘇ってきました。玄関はその家の顔になる場所です。使いやすく雰囲気よいの玄関扉をスチールドアでつくってみませんか?
*上記の内容は2014.12.8.-12.13.に建築家31会のばとろぐ「bat-log」にて掲載されたものを1つの記事にまとめたものです。